人生を変えたスリランカ。ちょい足し調味料は「愛」 No.024 パンチャカルマ 小宮利文さん
- 2021.03.29
- written by 山本 卓

運ばれてくるワンプレートはとても鮮やかで、見る者すべてを魅了する。スプーンを持ち、豪快に混ぜ合わせる。カレーを口に運ぶたび、心が癒され、優しい気持ちにさせてくれる。食後はスリランカから輸入している紅茶でティータイム。最高な時間を提供してくれる食堂がこの佐賀の山にある。「こみちゃん食堂」だ。
今回は、スリランカに恋した、こみちゃん食堂のオーナー小宮利文さんにスリランカの魅力や山での生活をする上で大切にしてきた想いなどを伺いました。
スリランカカレーを始めたきっかけ。「所持金1万円しかなくて」

本日はよろしくお願いします。さっそくなんですが、小宮さんのお仕事についてお話を聞かせてもらってもいいですか?
現在は、表面上はカレー屋ですね。(笑) NPO法人Murarkさんのコミュニティカフェ「みつせCUBE」をお借りして、毎週スリランカカレーやスリランカ紅茶の販売などをしています。それ以外には移動販売やイベント出店などもしています。
小宮さんのスリランカカレーって、めちゃくちゃ優しい味がしますね。
スリランカカレーは、作り方がシンプルなんです。日本でいう田舎料理に似ているところがあります。野菜や肉を切って炒める。油も少ないし、炒める時間も少ない。お客さんに「スリランカカレーは日本食にスパイスが入った煮物みたいなものだと思ってください」って説明しますね。

そもそもスリランカカレーをやっていこうと思ったのは、なぜですか?
スリランカに何度か旅をしているんですが。2回目ぐらいだったかな。日本に帰国した夜に頭が痛くなって。「なんでだろう」と。数日後、病院で診てもらったら「寄生虫ですかね」って。(汗) それから1か月ほど働くことができなくなったことがありました。自分に課せられた試練なのかもしれないと思っていたんですが、「子供のいるのに、これからどうしよう」「なんでこんなことになってしまったのか」って、不安でいっぱいでした。そんな時に、知人に言われた言葉がきっかけで、スリランカと関わっていこうと決めたんです。
なんと言われたんですか?
「オープニングセレモニーやね」って。(笑) その言葉で、なんかスッキリしたんです。
移住前にやってたカレーの移動販売は移住後は中断したんですが、とにかく今できることから改めて始めようと思って。その頃、所持金1万円しかなかったんですが、せっかくスリランカのお母さんたちに料理も教わっていたので、買える材料を買って、週末にカレー屋を再スタートすることに決めたんです。
所持金1万円って。めちゃくちゃピンチだったんですね!
お金が無いなら無いで、心配してもしょうがないなみたいな。今までの人生でも、こういう状況はよくあることなんで。大丈夫っす。(笑)
こみちゃん食堂のスリランカカレーの魅力は美味しさ以外にも、お客さん同士が本当に仲良くしゃべっている場の空気感にもあるような気がしているんですが。
カレーは、コミュニケーションを取るための一つのツールだと思っています。カレーを食べに来るんじゃなくて、食べに来た人たちとお喋りをしに来てほしい。カレーを美味しく作る人はたくさんいますから、こみちゃんカレーは、食べに来たお客さん同士で生まれる新しい輪を大切にしていきたい。何よりそれが、嬉しいですから。

表面上はカレー屋とおっしゃっていましたが、本質的には何に力を入れているんですか?
スリランカ紅茶の販売ですね。紅茶は、時間をかけないといけない飲み物なんです。紅茶を入れるって、ちょっとめんどくさいことかも知れないですが、あえて、そのめんどくさいことをしてもらいたい。

紅茶を入れて飲む時間は、自分と向き合う時間に使ってほしい。
紅茶を楽しむ20~30分は肩の力を抜いて、本当の自分と向き合い、自分の感覚に戻る。忙しくしている日本人にこそ、紅茶を飲んでもらいたいと思っています。
スリランカとの出会いが人生を変えた。「自分だけが良ければいいという考えは違う」

スリランカという国に出会ったきっかけは、なんだったんですか?
きっかけは、嫁さんの実家でしたね。スリランカ直輸入の喫茶店を営んでいて。25年ぐらい前から嫁さん(万智子さん)の母さんが、スリランカから紅茶を輸入していました。
ところがスリランカで輸入のバイヤーをお願いしていた知り合いの方が日本へ帰国しなくちゃいけなくなってしまって。(汗) 別の方法で紅茶の輸入ルートを確保しなくちゃいけなくなってしまいました。
その時、僕たちは新婚旅行に行っていなかったので、「どうせならスリランカに行っちゃう?」みたいなノリで、家族でスリランカへ行くことにしたんです。その旅行中に出会った方々の影響もあって、どんどんスリランカにハマっちゃいました。(笑) 自分の中で「もっと、ちゃんとスリランカと関わりたい」と思うようになりました。
小宮さんの中で、スリランカのどこが心に響いたんですか?
スリランカは、子どもに対してとても優しい国でした。子ども連れだった僕たちに対して、若者が率先して「席を譲ってやれ」って声をかけてくれる。その思いやりの心とか。
第二次世界大戦後、日本が諸外国に対して賠償倍書請求を求められていた時に、スリランカの偉いさんが諸外国に対して「そのやり方は間違っている。憎しみを憎しみで返しても何にもならないじゃないか」って、演説してくれたんです。そんなこと教科書でも習わないでしょ。
知らなかったですね!!
実際にスリランカに行ってみて、今のスリランカが歩んでいる道は、昔の日本と同じではないかと思ったんです。現在のスリランカはインフラの整備が進むにつれて、体に悪影響が出る可能性のある農薬を使ってでも、生産性を上げる農業のやり方をしている。昔の日本と同じです。
世界のどこかでは使われなくなった農薬を、スリランカでは現在も使ってしまっている。それが結局、海に流れるわけでしょ。ゴミもそうじゃないですか。地球は一つなのに「自分たちが良ければ大丈夫」みたいな考えは違うんじゃないかなって。
だから僕は、スリランカとご縁ができたんだから、僕たちがオーガニックの紅茶を輸入して、それを飲んでもらい「スリランカ紅茶っていいですね」って思ってくれる人が増えれば、農薬を使う農業より、使わない農業の方が良いと世の中の流れが変えられる。その想いを伝えたいから、今はスリランカ紅茶に力を入れているところもあります。最終的にはスリランカの人へ仕事を作っていきたいです。

作物によっては、その地域のシェアが1%増えるだけで、貧しい生活をしている人たちが、当たり前に生活できるようになるらしいんです。だから自分たちが選んで買うものが、自分以外の人や環境にどのような影響を与えているか、いつもの買い物をするときに少しでも想ってもらえたら嬉しいです。
自分が変われば、人は変わる。1人1人の意識が変われば、世界は変わると思うので。
お金は物々交換の1つのツール。だから生活費は10万あればいい。

小宮さんが思う理想の生活スタイル。暮らす上で大切にしていることは何ですか?
いかに少ない量で生計を立てるかは意識をしていますね。お金もそうなんですが、貯金するという意味でのお金を持たない。生活費なんてね、10万円あれば十分なんですよ。
生活費が10万円ですか?!
お金に執着してしまったら、何事も前に進めないじゃないですか。人生なんとかなる! 誰かが助けてくれます。
「お金が無くてやばいな」と思っていると、イベントのお誘いがあったりしてちゃんとお金が入ってくる。そのお金を、また誰かに使う。そうやって循環していくと、必ずお金は自分にも返ってくる。お金が無い時って心配しても、しょうがない。信じるしかないです。(笑)
とはいえ生活するためには、お金が無いと不安になってしまいます。
極論だけど、僕の中ではお金っていらないんです。お金は物を交換するツールとして使っているだけで、お金があるからご飯を作って食べているわけじゃなくて、お腹が減ったからご飯を作って食べる。世の中の物々交換に、お金を使っているだけで、別にお金が無くなっても食べ物があれば、ご飯は食べれますから。
だからお金を使う時は、なるべく、目に見える周りの友達から買ったり、仕入れたりします。そうして自分の周りでお金をちゃんと回すことで、自分にも戻ってくる。そういう風に循環の輪をどんどん大きくしていけば、持つお金ではなく、使えるお金が増える。
実際、循環させることを意識していると、物事って動いていくんですよ。応援したい人達にお金を使えたりね。自分達が幸せだなって思う暮らしができる分のお金を身近で回せる人間になりたいです。別にお金持ちになって、好きな事をやりたいというよりも、お金を回すことによって、自分も幸せで他の人も幸せになってもらう。その方が楽しいじゃないですか。
他の人も幸せになってもらいたいと思う気持ちがあるから、僕がこみちゃん食堂で食べたスリランカカレーも優しい味がすると感じたんですかね。
今でこそ、限定20食とか少ない量でスリランカカレーを販売していますが、昔はたくさん作ってたくさん売ることを考えてはいました。でも、なんか自分の中でスッキリしなくて。
だから少ない量で、どうにか生計を立てるほうに意識が動いていき、今の生活スタイルになっていったんだと思います。
安心感を与えてくれる仲間が山にいる。すべては「愛」。

最後に、これから移住を考えている方にアドバイスをいただけますか?
都会の人って家賃にすごいお金を払って、保険にお金を払って、僕らよりもよっぽど稼いでいるのに、いつも「お金が無い、お金が無い。」って。なんのために働いているんだろうって思う人も多いと思います。変な不安に煽られて余計に不安になってしまう気がします。
山の生活では、全然お金とは関係無いところで嫌な顔一つせずに助けてくれる人がたくさんいます。そういう人がいるから、心の安心感がある。ある人が「お金って愛なんだよ。憎しみは憎しみしか生まない。愛は愛でしか生まれない。憎しみは愛でしか癒せない」って言っていました。困ったときに必要なのはお金ではなく愛。その想いの輪が大きければ大きいほど安心感があるし、輪が大きいってことは安心感を持っている人がいっぱいいて、楽しいって思えている人が多くなる。だったら移住してからの心配することより、移住を楽しんでもらった方がいい。
僕も、この山の暮らしをしていて、周りの方々の優しさを肌で実感していますね。それが愛だったんですね。
愛って言っているの自分に照れますが!(笑) でも移住することをもっと軽く考えていいと思います。山に住んでみて「やっぱり町の方が好きだな」って思ったら町に住めばいいですしね。「死ぬまでずっと佐賀の山に住まなきゃいけない」と思わなくていいと思いますよ。とりあえず住んでみようかなで全然いいですよ。
本日は貴重なお時間ありがとうございました。
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ー 編集後記 ー
将来、結婚をして、子どもができて、どんな家族を作りたいかと考えることがあります。小宮さんご家族と過ごさせてもらう時間って1分1秒ずっと幸せだと感じさせてくれます。小宮さんに聞きました。「なんで小宮さんのカレーはこんな優しい味を感じるんですかね?」小宮さんは照れながらこう答えました。「このカレーのスパイスには愛が入っていますからね」照れながらドヤ顔をする小宮さん、その横で奥様の万智子さんが笑う。なんて素敵な家族なんだろう。僕もいつか笑いが絶えない家族をこの佐賀の山で作りたいと思います。(まだまだ先の話ではあるだろうけど。(笑)


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<お世話になった取材先>
小宮利文さん(41)
パンチャカルマ(こみちゃん食堂)
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<お世話になった取材先>
小宮利文さん(41)パンチャカルマ(こみちゃん食堂)
1980年 神奈川県生まれ
23歳の頃初めてワーキングホリデーを活用し海外へ。オーストラリアにいた頃にカレーと出会う。その後、数回のスリランカ紀行にて出会った有機紅茶とスパイスを使ったスリランカカレーを販売する「こみちゃん食堂」を始める。現在、店舗は構えずイベント出店やキッチンを借りて営業。スリランカのお母さんたちに教わった家庭の味をベースに、旬のお野菜がたっぷり入ったカリープレートと優しくも力強いスリランカ紅茶は絶品です。
パンチャカルマのFacebookで「こみちゃん食堂」の情報をUPしてます。
オンラインショップ【パンチャカルマ】




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<取材記者>
山本 卓
「佐賀のお山の100のしごと」記者/地域の編集者(地域おこし協力隊)
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<取材記者>
山本 卓「佐賀のお山の100のしごと」記者/地域の編集者(地域おこし協力隊)
大阪府高槻市出身。10代のころから役者を志す。夢を叶えてCMや大河ドラマをはじめ映画や舞台で活動。劇団「ブラックロック」の主宰を経て、海外公演を自主企画で成功させる。その後、キー局情報番組のディレクターとして番組制作に携わる。夢は日本を動かした100人になること! 地域の人に密着した動画作成や、人の顔が見えるマップを作りたくて移住を決意

