「お湯にも地元にもどっぷり!」ななのゆ支配人の裸の付き合い的人生観 No.010 山下末二さん
- 2020.06.06
- written by 山本 卓

唐津市七山にある、思いっきり深呼吸がしたくなる施設『鳴神温泉 ななのゆ』(以下『ななのゆ』)。
建物内に入るとヒノキの良い香りが広がりホッとする。建物にはすべて七山産の木材が使われているそうだ。泉質はトロトロ、ヌルヌルするような肌触りが特徴。
七山の憩いの場となっている『ななのゆ』支配人、山下末二(やましたすえじ)さん(68)。
支配人になる前の約40年間、唐津市役所の職員として働いていたという異色の経歴をお持ちです。
行政と地域。両方の思いがわかる山下さんだからこその、地域との関わり方や仕事に対する思いなどを、たっぷり聞かせていただきました。
七山の魅力に肩までしっかり浸かって、裸のお付き合いをさせていただきましょう!(笑)
七山の魅力は「人間力」

本日はよろしくお願いします。まず山下さんにとっての、七山という地域の魅力をお聞きしたいです。
七山の魅力は、「人間力」ですかね。昔、「福岡方面からのお客さんをもっと取り込み、地域活性していかないかんね」って話で、七山の地域の人が結束して、核となる施設を作ったんです。それが、現在私が支配人を務める『ななのゆ』と、七山の特産物直売所『鳴神の庄』になりました。
そうやって一丸となって、地域を盛り上げたいという気持ちが好きで。そういう活力がこの地域にはあるんです。
七山の方は自発的に何かをやろうという人が多いんですか?
今は地域を引っ張っていってくれる若者が少なくなりましたが、昔は多かったです。例えば、そういう考えの人が昔は100人いたとしたら、今は20人ぐらいです。それだけ人口も自発的に何かをやろうという人も減ってきているのが本当のところですね。
楽しくないと仕事じゃない。支配人の役割

『ななのゆ』の支配人としては、どのような仕事をされているんですか?
従業員のシフトを決めたり、売り上げの計算をしたり、支配人としての細かな仕事はありますが、「これが支配人の仕事です」というのは難しいんですよ。
この施設で働いてくれている従業員は総勢30人ほどで、とにかく人手が足りないんです。だから私も、風呂掃除からフロント業務、食事処のレジ打ち、館内の清掃など、みんなと同じような仕事もしています。
オールマイティに仕事をしていかなくてはいけないんですね。
そうなんです。僕もそうですが、従業員の子たちもオールマイティに働いてくれています。休憩を回さないといけない時などは、従業員同士でその部署へ応援に行って助け合ってくれています。
人手が足りなくて申し訳ないですが、今もこうして営業できているのは従業員ひとりひとりのおかげです。感謝しかありません。
山下さんがお仕事をする上で、心がけていることはありますか?
従業員の子たちが働きやすい、楽しく仕事ができる環境づくりを心がけています。楽しくないと仕事ではないと思っているからです。楽しい環境だからこそ、心から「今日はおいでいただいてありがとうございます」と笑顔でお客様を迎えることができるんですよ。従業員の雰囲気はお客様にも伝わりますからね。笑顔あふれる楽しい環境づくりが僕の仕事です。
『ななのゆ』の魅力はほっとする自然と可愛いイノシシ?!

『ななのゆ』の魅力は、どんなところだと思いますか?
温泉に浸かりながら七山の自然を見てもらい、食堂で地元の食材を使った料理を堪能してもらう。そしてなにより、静かにいい湯に浸かってもらって、のんびりしていただける環境がこの『ななのゆ』の魅力だと思っています。来てくださったお客さんがいつも温泉だけでなく「ここの自然が、ほんとにいいですね」って言ってくださいます。里山の風景を楽しんで、七山に癒されて帰ってもらいたいという気持ちでいます。

ところで、入り口にある、衣装を来たイノシシがすごくかわいいですよね。
イノシシの、はく製がそのまま裸でおいてあった時に、子どもが怖がって泣いちゃったことがあったんですよ。どうにかして、子どもたちに喜んでもらえないかなと考え、「そうだ。なにか衣装を着せれば可愛くなるかも」と思って今の形になりました。

いつも、この衣装なんですか?
クリスマスにはサンタの衣装とか、季節が変わるごとに衣装を変えています。
今では、ここを訪れる子どもたちに喜んでもらってて、嬉しいですね。
従業員のみんなからも「次はこんな衣装にしましょうよ」って案をもらったりして。それも仕事の楽しみの一つになってますね。
市役所職員40年。転身先は温泉施設の支配人!

支配人になる前はどんなお仕事をされていたんですか?
唐津市役所に、40年間務めていました。そのうち、5~6年間は観光や地域づくり事業に携わっていて。その頃に、「七山ってやっぱりいいところだな」と思ったんです。
その後、ご縁があって、たまたま「支配人として働いてくれないか」と声をかけてもらい七山に帰ってきたという感じですかね。
市役所職員から支配人、まったく違った職業への転身だったと思うのですが、戸惑いはなかったのですか?
やっぱり戸惑いはありましたね。ただ、市役所職員時代に観光とか地域づくりに片足を突っ込んでいたおかげで、役所のルールや税金などのことは理解していたので、初めからできないってことではなかったです。

現在、『ななのゆ』の支配人になられて何年目になりますか?
一度辞めている時期があるので、トータルで6年半ぐらいですかね。
一度目は4年間支配人をしていました。契約期間を終えて次の人に引き継いで、「あとはのんびり暮らそう」って思ってたんですが……。それから2年半後、地域の方から、「もう一度支配人をやってくれないか?」と声をかけていただいて。一度は断ったんですよ。だけど、地域のみなさんの「戻ってきてもらいたい」という情熱に負けたって感じですね。
ここだけの話、本当はのんびりするつもりだったから嫌々ながら戻ってきたんですよ。なんてね。(笑)
みなさんの期待に答えられるように毎日頑張っています。この仕事は大変だけどやり甲斐があるので楽しいですよ。
七山の総合プロデューサー!? 地域に浸かる、それが面白い。

地域活性のための活動も行っていると伺いました。どんなことをされているんですか?
七山を楽しんでもらおうと、観光パンフレットを作っています。万葉集に七山に関する詩が謡われていたりするので、過去の文献などをさかのぼって、一つ一つ調べていってます。この地域には、他にも面白い伝統がたくさん残っています。パンフレットを見て「七山にはこんな伝統や文化があるのか。面白そう」っと、思ってもらいたいですね。
支配人の仕事というより本当に地域活性のための活動なんですね!
そうですね。たとえば、観光パンフレットを作る時に「店の情報を載せたい」と思っても、行政は公平性を重視しなければいけないので、個人の店を載せられないんです。
観光客が本当に欲しがっている情報を反映したくてもできない。公平性が邪魔をする。それが、 「行政の壁」というものなんです。だったら、「行政ができないことを私がする」そう思っていますよ。
行政側と地域側の両方の気持ちがわかる、すごく重要なポジションですよね。
そんなことないよ。(笑)
結局「行政の壁」がある以上、行政だけでやることは無理でしょ。だけど、私には『ななのゆ』という、人を集める核となる場所がある。お客さんと行政の、本当のつなぎ合わせができる。私は40年近く公務員をしていたから、行政の気持ちもわかるんです。
あとは私自身、このパンフレット作成を通して、より深く七山の歴史や文化を理解できました。行事一つにしても、「なぜこの行事は行われているのか? なんのために?」と考えるんです。その疑問を、この地域にどっぷりつかって徹底的に調べていくと、「なるほど。こういうこともあったのか」とわかったりする。その新発見があるとまた面白いんですよ。

山下さんは「七山の総合プロデューサー」ですね!
そんな大したものじゃないよ。(笑)
私は遊びでやっているぐらいの感覚ですから。だいたい私は「明るく、楽しくいこう」という性格なもんですから。パンフレット作りも楽しまなきゃもったいない!(笑)
地域にどっぷりつかってもらえる方に移住してほしい

七山に移住してみたいと思う方に、何かアドバイスをお願いします。
この地域にどっぷりつかってもらえる、ガッツのある人に来てほしいですね。仕事もそうだけど、「教えてください」ってふわっと来ると、何を教えればいいのか私たちも困ってしまうところがあって。だから、温泉に一緒に入りながら未来について語り合える 「裸のお付き合い」のできるガッツのある方に来てほしいです。その時はぜひ『ななのゆ』をご利用ください。(笑)
もし『ななのゆ』で働きたいって人がいたらどうでしょう?
それはウェルカムですよ。
いつでも募集中です。人が来たら私は引退できますしね。(笑)
そんなこといわずに今後ともよろしくお願いします!(笑) 本日は、とても貴重なお時間をいただきましてありがとうございました。
現在は支配人を引き継がれておりますが、山下さんの七山への思いを引き継ぎ鳴神温泉ななのゆは変わらず地元からも観光客からも愛されています。
移住に関するお問い合わせ・相談はこちらまで。
ー 編集後記 ー
取材中ずっと、まるで温泉に浸かりながら話しているような、「裸のお付き合い」をしている感じがしました。とにかく「どっぷり相手と裸のお付き合いをすること」それが山下さんの人生観なのだと思いました。山下さんの優しさは疲労回復効果絶大です。七山の景色が楽しめ、ゆっくりどっぷり体も心も癒される『鳴神温泉 ななのゆ』 ぜひ行ってみてください。


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<お世話になった取材先>
『鳴神温泉 ななのゆ』
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<お世話になった取材先>
『鳴神温泉 ななのゆ』
七山の憩いの場となっている『鳴神温泉 ななのゆ』支配人 山下末二(やましたすえじ)さん(68)。
支配人をする前の約40年間、唐津市役所の公務員として働いていたという異色の経歴を持つ。
とにかく自然が大好き。山の楽しさは結果がわかりやすいこと。野菜も花も可愛がったらその結果が目に見えるから。海の楽しさは他人任せなところ。釣りなんて魚任せ、と話す。
2020年5月末をもって支配人を退職。今後何をしようかウズウズしているそうです。




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<取材記者>
山本 卓
「佐賀のお山の100のしごと」記者/地域の編集者(地域おこし協力隊)
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<取材記者>
山本 卓「佐賀のお山の100のしごと」記者/地域の編集者(地域おこし協力隊)
大阪府高槻市出身。10代のころから役者を志す。夢を叶えてCMや大河ドラマをはじめ映画や舞台で活動。劇団「ブラックロック」の主宰を経て、海外公演を自主企画で成功させる。その後、キー局情報番組のディレクターとして番組制作に携わる。夢は日本を動かした100人になること! 地域の人に密着した動画作成や、人の顔が見えるマップを作りたくて移住を決意

