全国から注文が入る「ゆず胡椒」改良を重ねた完熟ゆずたっぷりの佐賀の味。ゆず工房 No.011 吉原光子さん
- 2020.07.03
- written by 鵜飼 優子

「ゆず胡椒」ってご存知ですか? 九州では言わずと知れた、定番の調味料のひとつ。胡椒は唐辛子のことを指し、ゆずと胡椒、この2つと塩などの調味料を使い、つぶして練ったものをゆず胡椒と言います。
鍋や刺身にちょこんと添えて食べると、ぴりりとした辛さとゆずの風味が広がり、癖になります。
佐賀のお山に住んでいる方に聞くと、赤と青、粗いものやきめの細かいもの、ゆず胡椒にも色々な種類があるそうです。
1種類だけを使うのではなく、この料理には、このゆず胡椒を使うなど、使いわけをされている方もいらっしゃるそうです。まるで、お味噌を赤みそ、白みそと使い分けるような感覚ですね。
今回は、そんな九州では定番のゆず胡椒を作られている、ゆず工房の吉原光子さんにお話を伺いました。
光子さんのゆず胡椒は、ゆずも唐辛子も自家製。ゆずがたっぷり使われていて、瓶をあけると、ふわ~っと香るゆずの香り。そして、ゆず胡椒のきめ細やかさがポイント!
味はとってもまろやかで1度食べたらついついリピーターになってしまいます。九州だけでなく、全国津々浦々から注文が入る光子さんのゆず胡椒のおいしさとこだわりとは。
改良を重ねてたどり着いたこだわりの味

光子さんのゆず胡椒は、とってもさわやかで美味しいですね! ゆず胡椒の作り方は光子さんが考案されたのですか?
ありがとうございます。そうですね。昔から七山でゆず胡椒を作っている方も多くて、わたしもやってみようと思って作り始めました。
ただ、最初は作り方が全くわからず。実は当時、新聞のお助け欄みたいなコーナーに「ゆず胡椒の作り方を教えてください」って投稿したんですよ。でも、なかなか返事が来ず。やっぱり企業秘密というか教えてもらえないんですよね。もう自分で作るしかないと思い、自分で作り始めました!
そんなことがあったのですね! 作り始めて、今の味にたどり着くまでに、どれくらいかかりましたか?
今の味に落ち着くまでに、20年くらいでしょうか? ゆずに対して、どのくらいの唐辛子を入れるかとか、お塩も種類を変えたり、防腐剤の代わりに入れているお砂糖も変えて。知り合いにも、何度も試食してもらって、感想を聞いたりしていましたね。思考錯誤の日々でした。
お塩やお砂糖……、いろいろな改良をされたのですね。
そうですね。たとえば、お塩は、はじめは普通のお塩でした。今は、ミネラルが多く入ったものを使っています。味がやっぱりまろやかで。しょっぱさがないですね。

ゆずや唐辛子にもこだわりがあるんですか?
そうですね。ゆずも唐辛子もできるだけ農薬などを使わずに自分たちで作っています。それから、うちは赤ゆず胡椒にも青ゆず胡椒にもあぶらののった完熟のゆずを使っています。
ゆずにあぶらがのるって面白い表現ですね。
完熟のゆずのことをあぶらがのった、とこの辺ではよくいいますね。赤ゆず胡椒は、完熟を使い、青ゆず胡椒には、完熟前の青ゆずを使う方もいらっしゃるようですが、うちは赤も青も完熟のゆずを使っています。
色々試してみたんですが、あぶらがのったゆずでないと、パサつくんですよね。ちょっとあぶらが出たときが、ねっとりして、唐辛子とよくなじむんです。なので、これがこだわりの1つでしょうか。

赤ゆず胡椒と青ゆず胡椒は、何が違うのですか?
大きく違うのは、唐辛子の色が違います。唐辛子は青から赤になるんです。どのタイミングで収穫するかで違うんですよ。
なので、先に青の状態で収穫するもの、赤くなってから収穫するもので分けています。青の方が未熟な唐辛子で、赤が完熟の唐辛子になります。もちろん、味も質感も香りも違ってくるんですよ。
なるほど! ゆず胡椒って実は、青のイメージが強かったのですが、赤いゆず胡椒もあるのですね。
この辺では昔は、赤しかなかったんですけどね。最近の売れ行きでは、青がよくでるようになりましたね。
あと、赤と青では、ゆずの分量も違います。赤のほうがゆずを多く入れています。というのも、青にゆずをたくさん入れると、色が白っぽくなるので。見た目も大事ですからね。
実はこの間、私もゆずを初めて収穫したのですが、ゆずの木にとげがあるのを知りました。ゆずの収穫は、どうやってされているのですか?
ゆずは、長いとげがあるので、皮手袋をして、分厚い作業着をて、高枝ばさみっていう長いはさみを使って、収穫します。といっても実は収穫は、うちの主人がしてくれています。

お父さん、頼りになりますね!
そうですね! ゆずの剪定などは主人がいつもしてくれています。主人には感謝ばかりです。
ゆずの収穫時期の11月半ばくらいからは、パートの方にも来てもらって1週間くらいで1年分のゆず胡椒のゆずを仕込んでいますよ。
20年の思いが全国へ

調味料やゆずの完熟具合を変えて、長い歳月を経て、できあがった光子さんのゆず胡椒ですが、普段はどんなところで販売しているのですか?
店舗だと、七山の農産物直売所の「鳴神の庄(なるかみのしょう)」と「鳴神温泉ななのゆ」。「唐津うまかもん市場」、三瀬にある「旬菜舎さと山」に置いていただいています。
残りは、全国に宅配しています。実は、直接注文がくる宅配が9割なんですよ。口コミのおかげですね。
すごい! ほとんどが直売の宅配の注文なんですね! 注文は、全国各地から届くのですか?
北は北海道から南は沖縄まで。全国ですね。長い時間がかかりましたが、口コミで少しずつ広がっていき、お客さん伝えで注文が入るようになりました。
関西が1番注文が多いですね。石川や東北からも、唐辛子はあるけど練ったものはないって言って、注文してくださる方がいますね。

関西が1番注文が多いのは意外ですね! 口コミが広まった最初のきっかけはありますか?
知り合いの製薬会社の方に送ったのがきっかけでした。製薬会社の方が気に入ってくださり、お歳暮で使ってくださったんです。
それで、お医者さんとか舌の肥えた美味しいものを色々食べてきている方たちが、うちのゆず胡椒を気に入ってくれたみたいで、ラベルをみて、直接注文をくださるようになりました。大きな会社だったので、影響力がすごかったです。
そのあと、九州の良いものを紹介する大人向けの生活雑誌「モンタン」で、「いい仕事をしている生産者を応援しよう」、「未だに知られていないうまいものを発見しよう」と始まった「九州の食品コンテスト」にも入賞したり、料理記者の岸朝子さんの本にも取り上げてもらいました。
本当に大好評ですね! やはりお歳暮の時期が注文の量が多いのですか?
そうですね。12月が1番多いですかね。お歳暮で使っていただいたり、やっぱり鍋に合わせてという方もいらっしゃいます。夏の時期もそうめんに合わせて注文が入ったりもしますね。

1年間でどれくらいの量を作られるのですか?
どのくらいだろう。年にもよっても違いますね! ピークだったときは、電話がひっきりなしで電話を切るとまたかかってきて……という時期はありました。今は、だいぶ落ち着きましたね。
それだけ光子さんのゆず胡椒が全国に届いているのですね! 仕事をしていて、大変だったことはありますか?
うーん、特別大変だったことはないですね。色々、工夫をしている間もお客さんに喜んでもらうのが1番と思っていました。それがやりがいというか、楽しみでしたね。
ゆずは身近な存在

ゆず胡椒を作る前にはどんなことをされていたんですか?
もともとは、みかんを作っていたんですよ。みかん専業農家で。けど、霜が降る時期のみかんは、傷んでしまって、商品価値がつかないんです。それで、霜に強いゆずを始めました。
ところが、ゆずを始めたのはいいけど、ゆずはなかなか秀品っていう、いい商品になるものが極端に少なくて。ゆずをどうにか生かそうと始めたのが、ゆず胡椒だったんです。
ゆずは寒いところに強く、気候的にもあっていたのですね。
そうそう。ゆずは、寒いところに強くて、日当たりもそんなに心配ないの。ゆず胡椒も皮を使うから、ゆずの中身の糖度って関係がなくて、けっこう作りやすいんです。
ゆず胡椒って、佐賀のお山では昔からなじみがあったんですか?
そうですね。昔は、1家に1、2本はゆずの木があって、多分、わたしのおばあちゃんとかも作っていたんじゃないですかね。昔は、冷蔵庫もない時代だったから、保存がきくように、塩がかなり多めのゆず胡椒だったと思います。

昔からゆず自体、身近な存在だったのですね。
うちも親の代から家の裏にゆずの木があったんですよね。
そして、昔はね、ゆず味噌っていうのがあったのよ。ゆずを3分の1くらい切って中を出して、みそを入れて、七輪の火の上にのせる。
みそがあったまって、くつくつなってきて、そうしたら、ゆずの香りがみそにうつるんですよ。そのあつあつのゆず味噌をごはんの上にのせて食べる。そんな食べ方をしていましたね。
わあ、ゆず味噌美味しそうですね! ゆず胡椒にも昔からの使い方ってありますか?
昔からよく使うのは、みそ汁とか刺身とか、酢味噌に入れたりとかね。あとは、チャーハンとか、お豆腐とか。
お客さんから教えてもらったのは、お茶漬けに青のゆず胡椒を使ったり、もつ鍋にも青がいいって聞きましたね。皆さんの声を聞いて、新しい使い方を教えてもらっています。
あと、うちのゆず胡椒は、使ったらその都度、冷凍保存することをおすすめしています。
冷凍保存するんですね。瓶のままですか?
はい。使い切るまで冷凍してもらって大丈夫です。お砂糖を入れているから、かちかちに凍ることはなく、最後まで美味しく使っていただけると思います。
しごとのやりがいと跡継ぎのこと

光子さんにとって、このしごとの面白さってどんなところですか?
やっぱり、お客さんの声が励みですね! お客さんから、「この料理にゆず胡椒使ったら、美味しかった」とか。久しぶりに注文してくださった方が、「お元気で作っておられて、よかった」とか。
わたしも年を取ってきたので、心配してくださる方もいますね。待ってくださっているお客さんがいるので、身体が動く限りは頑張りたいと思います!
光子さんのゆず胡椒には継ぎ手はいらっしゃるんですか?
実はいないんですよ。(笑) どうしましょうね?
そうなんですね! 光子さんのゆず胡椒、これからも食べ続けたいです。もし、記事をみて、継ぎたいという方がでてきたらどうですか?
それは、もちろん歓迎です! ゆず胡椒の継ぎ手も来ていただけたら、嬉しいですし、うちの息子のお嫁さんも来てくれたら……、うれしいですね。(笑)
ゆず胡椒の継ぎ手の方へのきっかけがこの記事でできたらいいのですが……!
何かのきっかけになったら、嬉しいです。身体が元気に動くうちは、ゆず胡椒作っていきたいと思うので、その間にご縁がつながればいいですね。
今後も光子さんのゆず胡椒を楽しみにしております。本日は、ありがとうございました!
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ー 編集後記 ー
取材の日は、ゆず工房のお隣にある自宅でお話を伺いました。薪ストーブのあるあたたかい玄関で、光子さんとお父さん(旦那さん)も一緒にお話をしてくださいました。光子さんが丁寧に話してくださり、お父さんは、ゆずの収穫で使う高枝ばさみや取ったゆずをみせてくださったり、とっても素敵なバランスのご夫婦でした。ゆず胡椒を一から自分で作り、歳月をかけて、レシピを完成させられた光子さんの探求心は、かっこいいなと思いました。


<お世話になった取材先>
ゆず工房
吉原 光子さん
<お世話になった取材先>
ゆず工房吉原 光子さん
唐津市七山でゆず胡椒を40年作り続ける。ゆず、とうがらしは自家製でレシピの改良を重ね、今の味へたどり着く。現在の商品は、赤ゆず胡椒、青ゆず胡椒、液状のゆず胡椒、ゆずの果実を絞った「ゆずそのまんま」がある。ゆずの香りたっぷりで爽やかな味で全国にもファンが多い。




<取材記者>
鵜飼 優子
「佐賀のお山の100のしごと」記者/地域の編集者(地域おこし協力隊)
<取材記者>
鵜飼 優子「佐賀のお山の100のしごと」記者/地域の編集者(地域おこし協力隊)
大阪府高槻市出身、ひつじ年。今まで暮らしたことのある地域は、北軽井沢、阿武、萩、佐伯、そして個人的にもご縁を感じている佐賀のお山にやってきました。幼稚園教諭やドーナツ屋さんなど様々なことにチャレンジしています。将来は、こどもとお母さん、家族が集える場所を作りたいです。佐賀のお山の暮らしを楽しみながら情報発信していきたいです。

