編集長コラム「毎日幸せになれる最終奥義! 田舎に本当になかったものとは?」
- 2019.11.14
- written by 門脇 めぐみ

「なんか、ほんとに毎日幸せだよね」
何でもない日に突然、うちの旦那はしみじみと言った。
私はポカンとしてしまった。
旦那の口から「毎日幸せ」なんて言葉が出てくるとは、夢にも思わなかったからだ。
そもそも「毎日幸せ」を感じている人がこの世の中にどれくらいの割合いるのだろうか。
「何かいいことないかな」と言っている人はよく見かける気がする。
しかし、「毎日幸せ」と言っている人はすごく少ないように思う。
何なら絶滅危惧(きぐ)種に近いくらいなのではないだろうか。
ニュースを見れば災害、不景気、不倫、詐欺、事件、事故……そんな話題ばかりだ。
当然のように、世界中で戦争も病気もなくならない。
毎日満員電車に揺られ、くたくたになるまで働いて、深夜に帰る生活が続くのは正直しんどい。
窓の開かないビルの中、無機質な空間で1日の大半を過ごす。
何を生み出しているのか、何につながっているのか、よくわからない仕事を延々と繰り返す。
くだらない自慢話に相槌を打ちながら話を合わせる。
そんな暮らしを、私も旦那も長らく続けていた。
当時の私は生きた心地がしていなかった。
疲労感をまぎらわせるように土日に遊びに行くのも、今思えばなんだか虚しい。
月曜日には、また満員電車に揺られなければいけないんだから。
しかも、満員電車に乗るとき当然のように私は9㎝ヒールのパンプスを履いていた。
素敵な靴が私を素敵な場所に運んでくれると信じて疑っていなかったし、それが私にとってのステイタスであり、幸せの1つだった。
当然、足の裏はボロボロだったけれど……。
当たり前のように流行りを追いかけて、服を整え、メイクをして、話題のランチに行く生活。
週末になったらどこかに出かけていき、長い休暇では旅行に行く。
いつもここではないどこかを求めていた。
お金は貯まらないし、稼いでも稼いでも足りなかった。
「もっともっと働かないと。」
「もっともっといい仕事があるのでは?」
「もっともっと眩しくて楽しい何かがあるのでは?」
毎日そう思っていた。
ところが、今はなんにもなくても「毎日幸せ」なのだ。
そして、私の周りも「毎日幸せ」そうだ。
旦那はもちろん、友人たちも近所の人たちもみんな「毎日幸せ」そうに見える。
「何かいいことないかな?」と誰かに、何かに期待しながら暮らしている様子は窺(うかが)えない。
不安や欺瞞(ぎまん)の渦巻く現代で、私の周りの人たちには一体何が起きているのか?
考えてみれば、なんてことはない。
私たちの共通点は、みんな佐賀のお山で暮らしていることだった。
昔からここに住んでいる人もいれば、私たち夫婦や周りの仲間たちのように都会から地方へ移住をして佐賀のお山で暮らしている人もいる。
移住者の中には、関東から来た人もいれば関西から来た人もいるし、UターンもいればIターンもいる。
どういうわけだか、佐賀のお山で暮らす人たちはみんな「毎日幸せ」そうだ。
最初に断っておくと、田舎で暮らすことは「毎日幸せ」の必須要件ではないと思う。
都会には都会の楽しさがあって、そこに夢や希望があって、やりたいことがある人はそのままでいいと思う。
だけど、もしあなたが「何かいいことないかな」と頻繁に口にしているようなら、ぜひ1度地方への移住も考えてみてほしい。
“何かいいこと”を探さなくても、“毎日いいこと”があるのが田舎暮らしであり、佐賀のお山での暮らしだから。
朝起きたら鳥のさえずりが聞こえる。
風が気持ちいい。
春には花の、夏には木々の、秋には実りの、冬には雪の、季節の匂いが満ちていて心地いい。
自然があるだけでなく、経済的にもコストがかからない。
私の家は8DK庭付き畑付き、倉庫もついて家賃3万円だ。
近くにある普通のアパートでも、2DK風呂トイレ別のきれいな部屋で5万円だ。
(近所の人からは高いと言われたけれど(笑)。)
水道代は井戸水なのでどんなに使ってもタダだ。
(ちなみに現在の私の家は、日本に数パーセントしか残っていないという川の沢水を引いている家だ。)
近くの保育園には待機児童なんていない。
いつでも快く子どもたちを預かってくれる。
仕事も、思っていたよりも豊富にある。
なんなら私はオーバーワークで困っている。
誰か、うちの山に移住してきてくれないだろうかと真剣に思う毎日だ。
私たちの仕事を助けてほしいと切実に思っている。
田舎で暮らすことはいいこと尽くしだ。
何がそんなにいいのか、挙げても挙げてもキリがないくらいに、いいことがたくさんある。
「田舎には何もない」
とよく聞くが、暮らしてみてわかったことがある。
「本当に田舎にないのは、ストレスだけだ」
という1つの真実だ。
本当に、ストレスがほとんどない。
五感に訴えかけてくるすべてのものにストレスがない。
これだけでも、生きている心地が断然に違う。
確かに、人間関係は狭くて時にディープなのだけれど、それでも一緒に生きていく必要があるとわかっているから、みんなが優しく寛容だ。
ただそれだけで、断然に生きやすい。
田舎暮らしとはつまり、“生きていきやすい環境で生きていく”ということなんだと思う。
時間にも、土地にも、空気にも、そして人にも余裕があるのだ。
だから、もし今の暮らしがつらくなったら、ぜひ1度地方移住にトライしてみて欲しい。
地方移住とは、「毎日幸せ」になるための最終奥義のような奥の手だと思う。
もしかしたら「毎日幸せ」と思わずつぶやいてしまうような思いがけない日々が待っているかもしれない。


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<取材記者>
門脇 めぐみ
「佐賀のお山の100のしごと」記者/林業女子会@さが 会長
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<取材記者>
門脇 めぐみ「佐賀のお山の100のしごと」記者/林業女子会@さが 会長
東京都墨田区生まれ。幼少期をスリランカ、三重県伊勢市で過ごしたことがきっかけで里山での暮らしや山への興味が生まれる。東京での暮らしを経て、2014年に地域おこし協力隊として佐賀市富士町へ移住。「林業女子会@さが」を立ち上げ、女性目線で山を楽しむ活動に取り組んでいる。人にも自然にも優しい持続可能な新しい時代の暮らし方を模索中。

